これは月刊自然医学(2003/1月号)に掲載させている森下先生の巻頭随想の解説編です。
2003/1 反「減塩論」(其の一)「高血圧・塩因説」は迷信
「塩は血圧を急激にアップさせて、高血庄症を招く」といった言説は、世間に広まり、一般に通用しているものである。
その説の根拠となっているのは、アメリカの医学者である、ダール博士(1954年)とメーネリー博士(1955年)の主導による、二つの研究である。
前者は、「日本の東北地方に於いて、脳卒中や高也庄症が多発している原因は、タクアンを始めとした漬物類、塩鮭などの塩蔵食品を多食しているせいであろう」とのダール博士一行の調査結果の発表に基づいたものである。
もっとも、この説については、その後、日本人医学者が再調査を行った結果によると、先の調査地近辺の村や町に於いては、塩分摂取量にほとんど差は無いにもかかわらず、高血圧症の発生率では高低の差がかなりあったという事実が確認されるに及んで、「食塩は、高血圧とは無関係である」ことが解明されたのであった。
もう一万の、メーネリー博士の研究は、「10匹のラットに、通常の20倍の食塩を6ケ月間与え続ける」といった実験を行ったもので、その結架、4匹に高血庄症が発症した、との報告を行っている。
この実験を人間に当てはめて見ると、通常の食塩摂取量を1日当たり15グラムとすると、実に毎日300グラムの食塩を、半年間にわたって摂取させ続ける……といった、まことに常識の域を甚だしく逸れ外れた話なのだった。
本当のところは、これほどまでに超過剰≠フ投与を行っているにもかかわらず、6匹ものラットが健常体を維持し得た事実の方にこそ、大いに注目して然るべき現象といえよう。
というわけで、米国医学者による2つの研究は、ともにかなりの眉唾もの≠ネのである。
そもそも塩という存在が、動物の体に於いて、そのうちでも特に人間の体にとって必須不可欠であることは、いまさら論議をする余地もない事柄だ。
誰もが知っている通り、生命は、40億年前にこの地球上に形成された原始海洋の中に於いて誕生したものである。
その生命が、遥かな時の流れ≠ニいう名の揺りかごの中で進化し続け、今から5億年前の時点で脊椎動物の段階にたどり着いた。
その中の一部のものが、さらに陸地へと進出を遂げたのは、3億年前(デボン期)だといわれている。
こうした進化は、まさしく「母なる海」の構成因子である水≠ニ塩≠フ働きかけによってもたらされたものに他ならないことを、見逃してはならない。
生命が、原始海洋を抜け出して、陸地への上陸を果たすという大飛躍に際しては、当然のことながら、「母なる海」そのものを、自らの体内に抱きこむこと、および、そうした状態を維持し続けることが、絶対条件として課されたのであった。
それは、体を構成している細胞の一つひとつに、自分自身のルーツと進化のプロセスを常に認識させることによって、脱線を防ぐとともに、生存をより確実にすべく最高に適した環境を与えるために他ならない。
われわれが、血液のことを「血潮」と呼び習わしてきているのも、以上のような由来があってのことなのである。
実際、血液のイオン組成が、海水のそれと非常によく似ていることは、全く驚くばかりである。
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